アルテ 9 ゼノンコミックス
著:大久保圭
出版社:徳間書店
貴族の娘アルテが画家であるレオの弟子として画家を目指す物語。
自分が画家としてどうなりたいのか。
そしてどう生きたいのかをコンチェッタの肖像画を描くことで見つめなおしたアルテは、まだレオの下で学びたいと感じます。
今回はレオとは腐れ縁の豪商、ウベルティーノの依頼から物語は始まります。
冒頭あらすじ
レオの使いとしてウベルティーノの屋敷を訪れたアルテ。
客室には沢山の絵画が飾られているが、彼自身は絵に興味はなく、客へのハッタリ用だ。
そんなウベルティーノだが、書斎には一枚だけ絵を飾ってある。
「金持ちとラザロ」富める者と貧乏人のラザロが対照的に描かれた絵だ。
ウベルティーノがレオに連絡した理由、それは新しい絵の依頼だった。
依頼書の中身を確認させず、食い下がるアルテに彼は納期は無いとだけ告げた。
依頼内容を確認しなかったアルテに呆れながら、封書を開いたレオは確認に行きましょうか?と尋ねるアルテに必要ないと答えた。
仕事にかかるレオをアルテは手伝おうとするが、彼はそれを止め、この仕事は一人でやると口にした。
工房はウベルティーノの仕事が入ってからアルテは忙しくなった。
ウベルティーノは納期は無いと言ったのだが、レオはその仕事にかかりっきりで、必然的にアルテの負担が増えたのだ。
アルテは自身の肖像画の仕事もあり、ほぼ休みなく働いているような状態だが、レオはそのアルテ以上に働いているようだった。
レオが何を描いているのか気になったアルテは、工房に置かれた絵を盗み見た。
描かれていた絵は、「金持ちとラザロ」だった。
数日後、完成した絵をアルテはウベルティーノのもとに納品した。
絵をみたウベルティーノは、絵は飾っておくとレオに伝えるようアルテに言った。
アルテは書斎に飾られた絵について、ウベルティーノに聞いてみた。
睨まれたが、そんな事で怯んではいられない。
アルテはにっこりと笑みを返した。
根負けしたウベルティーノはため息を吐いて、語り始めた。
飾られた絵は、レオの師匠が描いたものだという。
彼はアルテに絵の題材、「金持ちとラザロ」の話を知っているかアルテに尋ねた。
アルテはもちろんと答える。
福音書に記された、キリストが語った話の一つ。
金持ちは夜毎、宴を開き、ラザロはそのおこぼれで、空腹をしのごうとする。
しかし金持ちはラザロに手を差し伸べない。
やがて二人は死に、ラザロは天国へ、金持ちは地獄へという話だ。
ウベルティーノは、富を手に入れ、慢心し周囲の恨みを買い転落した人間を何人も見たとアルテに話す。
この絵は自分が慢心しないため、己を戒めるために飾ってあると彼は語った。
アルテは気付く。この館には多くの絵が飾られているが、ウベルティーノ自身のために描かれた物は、書斎の絵一つだけ。
そして今日からは、レオが描いたもう一枚が加わるのだ。
アルテは工房に帰り、レオにウベルティーノが絵を飾ると言っていた事をレオに伝えた。
そうか、良かったというレオの背中は満足そうに見えた。
それからアルテはたまにウベルティーノの書斎に行くと、飾られた二枚の絵を鑑賞して帰るようになった。
感想
レオとウベルティーノ。
レオは、口うるさくケチなウベルティーノを面倒だと言い。
ウベルティーノは、レオの師匠から頼まれた事で嫌々仕事を依頼していると嘯きます。
二人は表面上そんな風に装いながら、どちらもお互いを認めていると感じます。
書斎にレオの絵が飾られた事で、ウベルティーノはレオを一人前とようやく認めたような気がしました。
やがてアルテの絵も彼の書斎に飾られるのでしょうか。
まとめ
今回はウベルティーノのお話の他、アンジェロとダーチャのエピソード。そして次巻へ続く素性を隠した高貴な女性が登場します。
アンジェロとダーチャのエピソードでは、アンジェロの画家の徒弟としての苦労や、ダーチャの女性しての仕事における扱いの軽さ、アンジェロの姉の結婚についての相手の男の酷い対応など、この時代の人々を取り巻く状況が描かれました。
ウベルティーノの話や婚前交渉に対する世間の目等、宗教を熱心に信仰する人の少ない日本ではあまりピンときませんが、キリスト教の教えが人々の生活の中に溶け込んでいる事を感じます。
お読みいただき、ありがとうございました。