ふしぎの国のバード 10 ハルタコミックス
作:佐々大河
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
実在したイギリス人女流旅行家、イザベラ・バードの旅の様子を描いた冒険旅行記、第10弾。
契約を盾に通訳のイトを連れ去ったプラントハンター、マリーズ。
バードは旅の成功にはイトが欠かせないと、医師のヘボン、函館英国領事のユースデンの力を借り、マリーズとの話し合いの場を設けるが……。
登場人物
ヴィーチ
世界中から植物を採取、増殖、販売を手掛けるヴィーチ商会の社長
赤髪の英国人男性。
商会の一庭師だったマリーズのハングリーさに着目し、彼をプラントハンターに抜擢する。
商会をヴィーチ王朝(ダイナスティ)と呼ばれるほど発展させた商売人。
ヘンリー・シーボルト
外交官・考古学者
バードが函館で出会った黒髪の青年。
バードの旅のきっかけを作った博物学者、フィリップ・シーボルトの息子。
彼もバードと同じくアイヌの拠点集落、平取の調査のため函館にいた。
ヘンリーが一足早く出発したため、アイヌを調査した歴史上初の人間という称号は彼の物となりそうだ。
ディスバハ
ヘンリーの友人
金髪顎鬚にサングラスの男
ヘンリーの旅に同行し平取へ向かう。
あらすじ
通訳のイトを連れ去ったマリーズとの話し合い。
バードとしては今後も旅を続けるため、有能なイトの助けは必須だった。
しかし、マリーズは領事のユースデンに、清国での従者への発砲事件の事をちらつかされても折れる事はなかった。
清国の件は反抗した従者に対する正当防衛。
これ以上、仕事の邪魔をするなら上海の法廷に訴える。
上海にある英国高等領事裁判所。
日本や清国において、領事の裁量に不満があれば上訴し、領事の立場を危うくする事も出来る。
マリーズの所属するヴィーチ商会は英国本国の議員に働きかけ、領事の進退も左右出来る力を持っている。
暗にそう脅迫したマリーズの姿を見て、バードはある結論にたどり着く。
「マリーズさんは今まで人を雇う経験がなかったのでは?」
バードの言葉に振り向いたマリーズは、目を見開き彼女を睨みつけた。
「あなたは矛盾しています。なぜそれほど執着しながら、イトの意思をないがしろに?」
「使用人に意思などない」
切り捨てるように言ったマリーズにバードはお茶を飲み立ち上がると、あなたの失敗は経験の浅い旅人にありがちなものだと指摘した。
「イトには意思がある。清国の従者たちにも……良き旅人はそれを無下にはしないものです」
マリーズの胸に手を置き、真っすぐに彼を見つめバードは言葉を紡いだ。
感想
今回は函館、領事館でのマリーズの話し合いから始まり、七重勧業試験場でのイトとの再会、マリーズの仕事とイトの失敗、開拓使の証文とマリーズとの取引、旅の準備とシーボルトとの出会い等が描かれました。
その中でも今回はマリーズがプラントハンターになった経緯が印象に残りました。
ヴィーチ商会の社長からプラントハンターに抜擢されるまで、マリーズは一庭師として商会で働いていました。
汚れた服で植物の世話をするその姿は、パリッとしたスーツを着こなす今のマリーズとは恰好だけみればまるで別人のようでした。
この巻ではあらすじで書いたように、使用人への対応についてバートとマリーズの差が語られました。
元々は商会に雇われこき使われる低所得者層出身のマリーズ。
一方で高度な治療も受けられる裕福な家出身のバード。
バードは幼い頃から使用人と触れ合いながら育ち、彼らとの接し方も自然に学んだのでしょう。
マリーズはそんな経験はなく、恐らく自分が雇い主から受けたままに、イトや清国の従者たちに振舞っていたのだと思われます。
鷹揚なバードと張り詰めた雰囲気のマリーズ。
そんな二人の根本的な違いをエピソードを読んでいて感じました。
まとめ
マリーズとの取引も何とか成立し、マリーズから通訳のイトを借り受ける事に成功したバード。
次巻ではいよいよ目的地のアイヌの拠点集落、平取へと旅立つ模様。
農耕文化を持たないアイヌの人々。
彼らと出会いがバードにもたらすものは。
次回も読むのが楽しみです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。