AIの遺電子 Blue Age 5 少年チャンピオン・コミックス
作:山田胡瓜
出版社:秋田書店
東京共創医療センターの研修医、須堂光(すどう ひかる)は人材交流としてAIが全てを制御する街、新世界にあるナイル共栄病院へ出向する事となる。
労働のない街として知られる新世界に住む人々。
表面上は穏やかで親切な彼らは、どこか歪んでいて……。
登場人物
塚本(つかもと)
新世界に住む女性
ゆるふわ黒髪でポニーテールの女性。
以前は競争の激しい会社に勤めており、その忙しさに耐えられる自分に価値を感じていたが、現在は別の価値観で生きている。
現在、妊娠中で出産後はシングルマザーとして子供を育てる予定。
川島由美(かわしま ゆみ)
新世界の住人の一人
茶髪セミロングな女性。
プログラムのバグを利用し、AIからの評価を上げる暴想族(ぼうそうぞく)の一人。
AIの評価、市民スコアによってサービスの増減する新世界で、突飛な行動(夕方5時に逆立ちする等)を取る事でスコアを上げようとしている。
井上(いのうえ)
新世界に住むヒューマノイドの老人
人工知能の限界による認知症に似た状態で、自分が自分でなくなる事を恐れており、そうなる前に安楽死を望む。
彼の妻はその事に否定的だが、息子は井上の選択を尊重している。
未華子(みかこ)
井上の娘
黒髪ショートでかなり感情的な女性。
井上達とは30年、絶縁状態だったが、井上の安楽死を知り新世界に駆け付ける。
彼女は井上が死を選択した事に強い反発を抱いているようだ。
あらすじ
新世界で暮らした事で新たな価値観を得た女性、塚本。
現在、妊娠中の彼女は競争社会や自分を育てた親のことを呪いと感じており、その呪いを断ち切りたいと考えていた。
そんな彼女が選んだのは、ニューノーマルプログラム。
AIの代理親を用いた子育て支援プログラムだった。
須堂は呪いを愛する気はないかと塚本に尋ねるが、彼女は須堂の提案を拒絶し、男性タイプのシッターロボットに子育てを任せた。
子育てはおおむね良好で、子供はすくすくと育ち、あどけない笑顔を振りまいた。
ただ、転んで泣くなどした時、彼がすがるのは塚本ではなくシッターロボだった。
塚本はその事に嫉妬心を抱きながらも、自分の選択は間違っていないと自身に言い聞かせるのだった。
感想
今回は精子の提供を受け、シングルマザーとして子供を産み、シッターロボに育児を任せる事を選択した女性、塚本のエピソードから始まり、新世界の人々が使うAIサポート「トンチ(視界にAIからのアドバイスが表示され、会話や行動の指針を示す)」について、AIの抜け道を探し市民スコアを上げようとする暴想族、安楽死の是非などが描かれました。
今回はその中でも、全編通して感じられたAIによる人々の管理についてが印象に残りました。
新世界を管理するAIシステム。
それは別に人を思い通りに動かそうとしているわけではなく、より穏やかに幸せに暮らせるよう、人々の意識を誘導しています。
ただ、新世界で暮らす人の中には、AIの示す道が絶対的に正しいと妄信してしまう者もいるようです。
また、AIの抜け道があると信じ、非科学的な実証実験を繰り返している暴想族についても、最終的にはAIに行動を制御されていました。
AIの判断は合理的で非合理性を多分に含む人間とは違い、間違いを犯す事は圧倒的に少ないでしょう。
しかし、その判断に身をゆだねる事は本当の意味で自分の人生を生きていないのではないか。
人間が一人一人違うのは多様性を得て、あらゆる局面に種として対応するためだろうし、AIという統一された価値観で平均化されるのは、危険なのでは。
エピソードを読んでいてそんな事を考えました。
まとめ
AIという統一規格で管理され誘導されている人々を見ていると、言い表せない漠然とした不安を感じます。
以前読んだ士郎正宗さんの作品、攻殻機動隊で草薙少佐が言っていた、どんなに優れたものであっても、単一の規格で作られたものはどこかに致命的な欠点を持つことになるという言葉を今回のエピソードを読んでいて思い出しました。
こちらの作品はコミッククロスにて一部無料で閲覧いただけます。
作者の山田胡瓜さんのTwitterアカウントはこちら。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。