天狗の台所 1 アフタヌーンKC
作:田中相
出版社:講談社
ニューヨーク育ちの少年、オンは14歳の誕生日の一か月前、両親から自分が天狗の血を引いていると告げられる。
天狗会連盟には「14の歳は人目につかず生きよ」というしきたりがあるらしく、彼は誕生日から一年間、日本に住む歳の離れた兄、基(もとい)の下で暮らす事となったのだが……。
登場人物
飯綱オン(いづな おん)
ピンクの髪でピアスの14歳の少年
ニューヨーク育ちの現代っ子。
14歳の少年らしく、天狗の持つ神秘的な力に憧れている。
飯綱基(いづな もとい)
オンの兄
黒髪唇黒子の29歳の青年。
非常に身軽だがそれが天狗の力なのかは不明。
二百三年ぶりの先祖返りらしく、背中に羽が生えている。
ただ、羽は小さく空を飛ぶことは出来ず、夏は汗疹に悩まされる。
食に強いこだわりを持つ機械音痴。
むぎ
基の家の犬
青目白毛の大型犬
天狗の力でオン達と会話出来る。
愛宕有意(あたご ゆい)
天狗の末裔の一人
浅黒い肌の青年。
IT系のサラリーマン。
稲刈りの際、手伝いにやってきた。
あらすじ
天狗会連盟のしきたりにより、兄である基の下で暮らす事になったオン。
暮らす場所は日本の首都、東京だったが、基が住む家はまるで昔話に出てくる様な雰囲気で、家の周囲は木々に囲まれていた。
「オレなんでこんなとこにいんだっけ……」
「天狗の家計は、14歳の一年間、俗世を離れ隠遁生活を……」
「それもう聞きましたァ」
聞きたいのはそういう事ではない。
現代で暮らすなら、あって当たり前の物が無い生活。
なぜ基はこんな暮らしを……。
そんなオンの疑問をよそに、基は収穫した果実を大きな笊に入れていた。
「今日とってたこれってなんなの、Apple?」
「アップ……ル?」
眉根を寄せる基にオンは何の果物か矢継ぎ早に質問した。
そんなオンに「いとうざし」と目を伏せつつ、基は果実を一つ割って見せた。
中から現れた種子をスッとオンにかざして見せる。
「えっ! なにこれ」
オンの言葉にガクッと首を落とし、クルミである事を説明する。
「正確にはシナノグルミといって……」
「クルミ!? クルミってこんなんなってんの!?」
「こんなんなってんだ。ゴム手袋をして、全部むくこと」
「そんなの天狗力でやってよ!! パッと、一瞬でさあ!!」
「何度も言うが、そんな力はない」
「そんなのただのヒューマンじゃん!!」
顔をしかめ叫ぶオンを基はスルー。
仕方なく椅子に腰かけ、オンはクルミをむきはじめた。
クルミをむきながら、オンは歳の離れた基にチラリを目を向ける。
彼はオンと同様、14歳の時、ここにやって来て、そのままここにいる事にしたそうだ。
どうしようもない変わりモンだ。
そんな感想を抱きながら、オンはクルミをむき終わった。
「これってもう食えんの?」
「3週間ほど乾燥させる」
基の言葉にガックリと肩を落とし、オンは「天狗力で乾燥させてってば……」とぼやいた。
感想
天狗の神秘的な力に憧れを持つNY育ちの少年、オン。
彼の兄で、先祖返りにより背中に翼を持つ機械音痴の青年、基。
天狗の血を引く兄弟が、東京にある里山のような場所でスローライフを送るお話。
二人は天狗の血を引いていますが、犬のむぎと話せる事、基の背に羽がある事以外は普通の人間と変わりないようです。
作品は食に強いこだわりを持つ基が先導し、作物を育て収穫、加工するのをオンがワイワイと騒ぎながら手伝う形で進行していきます。
扱う食材は冒頭のクルミの他、ハーブ、主食である米、柚子等。
物静かな基と騒がしいですが素直なオンの生活を覗き見るのが楽しい作品でした。
まとめ
都会育ちのオンは一つの食材が出来上がるまでの手間にぼやきつつ、出来上がった料理については素直に美味しいと感動していました。
作中、オンが言うように、スーパーに行けば簡単に手に入るものたち。
その一つ一つに工夫と手間がかかっているのだと、改めて気づかされました。
この作品はコミックDAYSにて一部無料でお読み頂けます。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。