黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ 1 モーニングKC
作:藤田和日郎
出版社:講談社
ロンドン警視庁(スコットランドヤード)の犯罪資料館「黒博物館」。そこには英国内で起きた事件のすべての証拠品が展示されている。
その日、博物館を訪れた女性が閲覧を希望したのは、1842年、一昨年の5月12日。
ヴィクトリア女王が催した舞踏会の現場に残された、片方の赤い靴だった。
登場人物
メアリー・ウルストンクラフト・シェリー
小説家
黒髪ロングの女性。
「フランケンシュタイン――あるいは現代のプロメテウス」の作者。
科学者、ヴィクター・フランケンシュタインと彼の生み出した怪物の物語。
その物語を執筆したことで彼女は近衛兵、アレックス大尉からある仕事を依頼される。
息子の学費のため、アレックスの依頼を引き受ける。
アレックス・ダンヴァーズ
近衛歩兵第一連隊(グレナディア・ガーズ)隊長、大尉
金髪で屈強な肉体を持った男。
コサックの暗殺集団「7人の姉妹」を待ち受け戦うも、姉妹は隊の半数を斬り殺し逃亡。
彼は一人仕留めることで手一杯だった。
コンラッド・ディッペル
死体蘇生の研究者
禿頭ギョロ目の老人
アレックスが倒した「7人の姉妹」の肉体と荷馬車に轢かれた村娘の頭部を接合し、電気刺激を与えて蘇生させた。
エルシィ
コンラッドが蘇生させた娘
金髪で傷だらけの顔の女。
7人の姉妹の肉体の力か高い身体能力と刃物の扱いに長ける。
蘇生の副作用か一部記憶を失っている。
ただ、頭部は村娘であるため剣を手にすることを嫌がる。
ウィルキンズ
メアリーの義父、ティモシー・シェリー準男爵の家の家政婦(ハウスキーパー)
女中たちの取り纏め役。
男性優位な社会構造に思うところがあるようだが、表立って波風を立てる気はない模様。
メイ
メアリーの義父、ティモシー・シェリー準男爵の家の女中
下働きの少女。
生きるため仕事を欲するエルシィに怯え、騒ぎを起こす。
ケリー
メイの上役の女中
エルシィに仕事を融通する代わりに、クズな亭主に苦しむ妹の救済を頼む。
あらすじ
小説「フランケンシュタインの怪物」を執筆した女流小説家、メアリー・シェリー。
ロンドン警視庁(スコットランドヤード)の犯罪資料館「黒博物館(ブラックミュージアム)を訪れた彼女が閲覧を希望したのは、ヴィクトリア女王の舞踏会の会場に残された赤い靴。
学芸員の女は彼女のファンであり、その事を知ったメアリーはミーハーな学芸員に表面上は不満な様子を見せつつ、彼女に赤い靴にまつわるある娘の話を聞かせ始める。
今から二年前、息子の学費を稼ごうと執筆を続けていたメアリーに、義父のティモシー・シェリー準男爵から屋敷に赴くよう手紙が届く。
ティモシーは息子、パーシーとの結婚に反対し、援助はあったが直接会う事はなかった。
どういう事だろう。
疑問を感じつつ、援助を打ち切られては大変とメルシーは義父の暮らすフィールド・プレイス屋敷へと足を運んだ。
しかし呼びつけたティモシーと会う事は無く、メルシーは別館へと案内される。
別館でメルシーを迎えたのは、近衛歩兵第一連隊の隊長であるアレックス大尉だった。
彼はヴィクトリア女王の命令だと、メアリーにある依頼を持ち掛ける。
戸惑うメアリーの前に、鎖で雁字搦めにされた巨大な箱が運び込まれた。
「貴女に思い至るまで……長かった。六人のご婦人に断られた」
ある男爵夫人は話を聞いただけで卒倒し、ある子爵の奥様は箱を開く前に逃げ出した。
アレックスの言葉にメアリーは何の話をと眉根を寄せる。
そんなメアリーにアレックスは彼女の作品である「フランケンシュタインの怪物」の話を始めた。
死体をつないだ怪物が出てくる突飛な話。
馬鹿げた嘘としか思えなかった。
「そ、それはそうですけど……言い方ってものが……」
そんなアレックスの言葉に思わずメアリーは不満を漏らす。
しかしアレックスは構わず続ける。
「だから我々は考えた。もしも現実にそんな怪物がいても、貴女だけは取り乱したりはしないだろうと」
現実に「怪物」なんているわけない。
困惑し、そう返したメアリーの前で箱の蓋が開かれる。
真っ黒な暗がりの箱の中から、赤い靴を履いた包帯覆われた足が姿を見せた。
自身の生み出した名前のない怪物。
物語の中の存在が現実に入り込んだように感じたメアリーは、恐怖のあまり絶叫していた。
感想
「フランケンシュタインの怪物」の生みの親、小説家のメアリーはコサックの暗殺者「7人の姉妹」の一人の肉体と、馬車に轢かれた村娘の頭部を接合した怪物の教育係を命じられます。
息子の学費の工面に困窮していたメアリーは、報酬である千ポンドのため、自分の作品に登場する怪物に似た包帯女に上流階級のマナーを教えることになるのですが……。
作品は異形の怪物、エルシィとメアリーの他、女中たちの交流を描きながら、当時の女性の立場にも言及しています。
男と女で明確な身分の差のあった時代。
作中、登場したケリーの妹などは、まるで奴隷のように夫から扱われていました。
生前のエルシィ(村娘)も掃除や洗い物、石炭運びなどの雑用を行い、暮らしていたようです。
能力があっても、女性が男と同じ仕事が出来ないことが当たり前だった当時。
そんな時代に女流作家として生きているメアリー。
彼女の存在がエルシィにどんな影響を与えるのか。
続きが楽しみです。
まとめ
この巻のラスト、メアリーは義父であるティモシー・シェリー準男爵と対面します。
息子と駆け落ちしたメアリーを嫌悪している様子のティモシー。
彼が何を語るのか、次巻が気になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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