ピノ:PINO
著:中村たかし
出版社:双葉社
世界で初のシンギュラリティ(人間の知能を超える)に到達したAI「PINO」。
そのAIを搭載した量産型人型ロボット「ピノ」は世界各地で人に代わり様々な仕事をはたしていた。
あるピノは野菜工場で作物の育成にあたり、あるピノは家庭教師として少年に勉強を教え、あるピノは地雷の埋設された地域で除去作業を行い、あるピノは認知症のある老女の息子としてケアに当たっていた。
そんなピノの内の一台、無人の研究所で働くピノに施設の爆破命令が下り……。
登場人物
ハナ・タキモト
FTB製薬に勤める女性研究員
本社から遠く離れた無人の研究所で働く初期型ピノの管理を、研究所責任者として行う。
研究所のピノ
無人の研究所で動物を育て動物実験を行っている。
遺伝子情報とタンパク質合成のシステムが完全に解明された結果、新薬の開発に動物実験も臨床試験も不要になった。
人体への影響がコンピューターのシミュレーションで99.99%割り出せる様になったからだ。
それでも動物実験を続けているのは、0.01%の不具合による訴訟問題への過失責任回避の為と一部の国の薬事法によるもの。
ピノはそれだけの為に動物を育て、薬を投与し、解剖して薬剤の効果を調べ、遺体を焼却処分する事を続けている。
研究所にはP4クラスと呼ばれる危険な研究棟もあり、その漏洩防止の為、P4クラスにタッチしていないピノも研究所に入って10年、外に出る事無く過ごしている。
イワタ
黒髪の中年男性。
ピノの起こした事故の調査を行っている。
スネークネスト(貧民街)のピノ(P03-385)
認知症の老女、吉緒良子のケアを行う。
良子はピノを昔交通事故で亡くした息子、サトルと誤認している。
ピノはその誤認が彼女の為にプラスに働くと判断、サトルとして彼女の介護に当たる。
メグ
スネークネストに住む少女。
悪ガキのケントとミチオに乱暴されるピノを庇う。
修理屋
スネークネストに住む機械修理を生業にする老人。
ピノのメンテナンスを受け持つ。
あらすじ
訴訟問題と一部の国の薬事法に遵守する為、FTB製薬は研究所とピノを残していた。
しかしジュネーブで行われた国際会議で、動物実験の禁止が満場一致で可決され、FTB製薬は研究所設立当初から決まっていた爆破による研究所の閉鎖を決定する。
研究所内の危険物質の漏洩を防ぐ為には、解体では無く爆破による高温での焼却処分が必須だった。
研究所の責任者、ハナ・タキモトはその為の書類に署名。
ピノに最後のコード(命令)を送信した。
ピノはそのコードに従い、研究所の起爆ボタンを押し込み爆破プロセスを開始させた。
すべてはプログラム通り、30分後には施設は爆発し処理は完了する筈だった。
だがピノは動きを止めず、プログラムにない行動をとり始める。
研究所内で育てていた実験動物、それらをケージから出し研究所から逃がそうとし始めたのだ。
研究所の内部を知り尽くしているピノは防疫シャッターを開け、エントランスへ辿り着く、固く閉ざされたエントランスの脇、物資搬入口を研究所周辺を整備する遠隔操作ロボットで開け、搬入口から動物たちを逃がす。
実験動物の中には未知の致死性のウィルスを持った者もいる。
ハナの上司である部長は非常用システムで搬入口を封鎖。
その事で搬入口の扉に体を潰されたピノだったが、彼の周囲には研究所から無事脱出した無数の動物が、彼に視線を送っていた。
「ピノーッ!」
モニターを見ながら思わず叫んだハナの言葉にピノはいつも通り
「ハナ・タキモト、良い一日ヲ」と返し活動を止めた。
ピノを看取り研究所を後にする実験動物たちの上に、防衛省のF21がNFAE(新型気化爆弾)を投下した。
感想
研究所でピノが起こした事故を発端にAIピノの調査が新たに作られたシンギュラリティAI「ARO(アロ)」によって行われ、AIプログラムに重大な欠陥が見つかります。
結果、世界中のピノは回収廃棄処分となるのですが……。
AIに心が宿るのか。
アンドロイド等が登場するSF作品を読むたび考えるテーマです。
人間の感情や心は脳が生み出しています。
プログラムとして機械的に反応を返すなら心とは呼べませんが、呼び掛けに対し感情が生まれ、その感情によって行動を決めるならそれは生物の反応と同じではないかと思います。
時代が進めばそんな人の思考を模したAIも生まれるのだろうか。
読んでいてそんな事を考えました。
まとめ
作中、スネークネストのピノを中心に物語は展開していきました。
彼の物語は勿論感動的だったのですが、個人的には地雷処理を十年休む事無く続けたピノのエピソードが一番涙腺を刺激しました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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