豊作でござる!メジロ殿 4 SPコミックス
著:ちさかあや
シナリオ:原恵一郎
出版社:リイド社
藩の農政を司る郡奉行「目白逸之輔(めじろ いちのすけ)」の活躍を描いた本格農業時代劇、その完結巻。
登場人物
田吾作
大道芸人の一座を率いる青年。
一座は興行の他に人手の少ない村の収穫等を手伝っている。
彼の一座が立ち寄った村は豊作に恵まれるという。
乙法師(おつほうし)
強姦、強盗、殺人等、様々な罪を犯していた罪人
浜に流れ着いたメジロの知己、神田を襲い入江にある大穴に投げ込んだ。
神田公俊(かんだ きみとし)
篤農家、農学者
清に渡り農事を学ぶ。
帰国時に嵐に遭い波に攫われ、浜に流れ着いた。
湯煙の平次(ゆけむりのへいじ)
詐欺師
大根作りの上手い庄屋、長左衛門を騙し村の金をせしめようと画策する。
作造(さくぞう)
石工職人
独立したばかりの頃から、石垣作りの名人として名を知られる。
石垣作りで藩の役人ともめた過去がある。
ヨシ
鬼婆とあだ名されるがめつい婆さん。
旦那が料理人だったらしく、芋の煮っころがしは絶品らしい。
過去に侍に理不尽な仕打ちを受け、侍全体を恨んでいる。
捨吉(すてきち)
幼い頃、母親に捨てられ和林檎の木の洞で猪と共に育った少年。
命を救ってくれた林檎の木を母と慕っている。
各話あらすじ
豊作の陰に傘チョロあり!でござる
目付から傘チョロを探れと命を受けたメジロ。
傘チョロとはチョロケン(張子で作った帽子を被った大きな顔の被り物を着て踊る)の事で、目付は一風変わったチョロケンを連れた一座が隠密では無いかとの疑いを抱いていた。
一座は大道芸の興行を打ちながら人手の足りない村で農作業を手伝っているらしく、北から南まで日本中で目撃されているそうだ。
ただの手伝いでも無く、行商をしている風でもない、そんな怪しい連中を捨ておく訳にはいかないとメジロに声を掛けたようだ。
果てなき道と尻二つでござる
ある日の事、城内の雑談で籠城戦における備蓄について問われた善波。
彼はそれにメジロなら「城中で作物を作ればよい」などと言い出しそうだと答える。
その言葉をメジロとは因縁浅からぬ書物奉行の板垣に聞かれてしまい、実際に城中で作物を作れるか試みる事となり……。
洞窟異聞でござる
強姦、強盗、殺人。様々な悪事を働きお縄についた悪党、乙法師。
メジロはそんな乙法師が知人を投げ込んだという大穴の近くに来ていた。
投げ込まれた知人は神田公俊。
篤農家で農学者でもあった青年だ。
彼は清で農事を学んだが、帰りの船が嵐に遭い沈没。
何とか浜に流れ着くも乙法師に襲われ、大穴に投げ込まれたのだった。
泣き笑い番付表でござる。
村の庄屋、長左衛門は訪れた湯治場で糸目の青年から大根の見立番付の話を聞く。
なんでも江戸では相撲の番付にならって、様々な物をランキング化する見立番付が流行っていた。
その見立番付を作る為、各地の大根の格付けを調べる覆面調査人を版元は送り込んでいるというのだ。
大根作りの名人として知られる長左衛門もその番付に載るかもしれない。
青年の言葉に私なんてと謙遜で返した長左衛門を見送り、青年はニヤっと陰湿な笑みを浮かべた。
青年の名は平次、湯煙の平次と呼ばれる詐欺師だった。
秘めたる石垣でござる
崩れた段畑の石垣修繕の為、石工職人の作造を呼び寄せたメジロ。
作造は当初、狛犬や灯篭を作る宮物石工を目指していたが、弟子入りした親方が穴太衆(あのうしゅう)という城壁や石垣作り専門の流れをくむ人物だった為、キッチリ仕込まれたそうだ。
作造と石垣の繋がりに覚えがあったメジロは、作造垣の話を思い出す。
作造垣、数年前の石垣の大修繕の折、腕がいいと評判の職人、作造がその修繕に当たったのだが、最後に城の端にある古い石垣の修繕に掛かった時、作造が藩のお抱えにして欲しいと言い出した。
この石垣の修繕は自分以外には手に負えない。
申し出が受け入れられないなら、仕事を断ってもいい。
そんな不遜な態度を取った作造はお役御免となり、石垣は修繕されないまま放置された。
その一件を揶揄して「作造垣」と呼ばれる様になったのだ。
とある茶屋の物語でござる
芋泥棒から包丁片手に芋を守る事で鬼婆と呼ばれる老女、ヨネ。
普請奉行から川沿いを歩けるよう、道の整備を頼まれたメジロが指揮して行った工事でそのヨネの芋畑が水浸しになった。
怒り心頭、一歩も引かない様子のヨネにメジロは詫びとして、経費をやりくりし茶屋を構えた。
橋沿いの茶屋は好評でヨシもご機嫌だったのだが……。
リンゴの揺籃歌でござる
藩内の山村で作られた西洋リンゴ。
殿様も気に入ったそのリンゴを作った村を訪れたメジロは、そのリンゴが山中のリンゴの木の洞に捨てられた少年、捨吉によって作られた事を知る。
メジロは少年と話そうと山に登るが、人間不信の少年に木の洞で共に育った猪をけしかけられ……。
豊年万作!さらばメジロ!でござる
藩内の各地を巡り農事についての研究を重ね、ようやくメジロは満足のいく農書を書き上げた。
先人の知恵を集めた専門書はその道に詳しい者へ託し、総論として編纂した「農事心得覚書」はしかるべきけん引役に託したいと考えていた。
農事心得覚書は百姓の自立を促し、国をまたいだ交易も推奨していた。
そんなメジロの言葉を耳にした目付は、その思想は幕藩体制を布いた幕府への批判だと激怒。
善波に暇乞いを申し出、姿を消したメジロの捜索と覚書の確保を命じるのだった。
感想
今回も様々な農業、作物の育成に関するお話や土壌についてエピソードが語られました。
その中でも最初のお話、チョロケンのエピソードが印象に残りました。
メジロが目付に調査を依頼されたチョロケンのいる一座は、大道芸人の特権、関所を超える際、芸を見せれば通過できるというものを利用し、日本中を旅して、新たな農法を各地に伝え収穫量を増やしていました。
その芸人一座の顔役である田吾作(たごさく)は百姓の次男として生まれた青年でした。
当時、次男は家や田畑を継ぐ事が出来ず、昔ながらのやり方を変えない兄に意見するも聞き入れては貰えない状態でした。
そんな階級社会に対する憤り、通例を守り効率の良い新たな方法を排除するやり方を田吾作は憎み、大道芸人を隠れ蓑にして日本各地を巡り知識と技術を売っていました。
これまでそうだったから、そうして変わろうとしないものは現在の日本でも溢れているよな。
エピソードを読んでいてそんな事を感じました。
まとめ
農事を研究し収穫量を増やし、民衆の生活の安定を目指した目白逸之輔の物語もこれにて終幕。
これまでメジロのして来た経験と知識が集まり実った。
全てを読み終えてそんな読了感を感じる作品でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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