イーハトーヴのふたりの先生 2 BRIDGE COMICS
作:山口八三
出版社:KADOKAWA
幼い頃から周囲の生物と痛みを共有する体質だった星野賢仁(ほしの けんじ)が獣医として働く動物園、南部イーハトーヴ。
そのイーハトーヴに先輩獣医の杉山(すぎやま)が椎間板ヘルニアを患った事で、臨時の獣医として津川雪生(つがわ ゆきお)がやって来る。
雪生の切り捨てる様な物言いに戸惑いつつも、賢仁は獣医としては優秀な彼と共に患畜の治療に当たり、ようやく辛辣な津川の言動にも慣れてきた頃、イーハトーヴの経営母体の代表南部が亡くなり、イーハトーヴは閉園の危機を迎えてしまう。
登場人物
小原(おばら)
南部イーハトーヴ飼育員
黒髪ショートの女性。
叱責を恐れ様子のおかしい兎の報告を怠る。
富谷(とみや)
南部イーハトーヴ園長
白髪の壮年男性。
賢仁の大学時代の恩師。
妻の病でイーハトーヴを離れる事に。
鷹尾(たかお)
富谷に代わり園長代理となった男
色黒サングラスの男性。
過去に傾きかけていた西部動物園を持ち直させた。
職員に人気回復のアイデアを募る。
津川宗二(つがわ そうじ)
雪生の叔父、故人
黒髪の爽やかな青年。
旧家然とした津川家において猛禽類の研究者になった変わり者。
エリートとして厳しく育ててられていた雪生に、家から出て獣医を目指す道を開く。
あらすじ
イーハトーヴの閉園。その事は賢仁に大きなショックを与えていた。
その事で作業に集中出来ない賢仁に代わり、園内の回診は雪生が受け持った。
担当の兎が食欲が無い事に気付いた飼育員の小原は、先輩に仕事の事を注意され萎縮。
辛辣な雪生に怯え小原は兎の事を報告出来ずに放置してしまった。
翌日、回診に出た賢仁は共感能力によって痛みを感じ、兎を病院に運んだ。
連れ込まれた兎を見た雪生は、同行した飼育員が報告を怠った事に激怒。
そんな雪生を宥め、兎の治療を賢仁は優先したが、体力が持たず兎は死んでしまった。
感想
今回は冒頭、イーハトーヴの閉園と兎のエピソードから始まり、園長代理とハズバンダリートレーニング(動物の健康管理及び研究を円滑に行うため、動物の行動分析学に基づいた訓練を行う事)、雪生の過去、真冬の停電、雪男との別れ等が描かれました。
今回は冒頭、治療が遅れ死んでしまった兎のエピソードが印象に残りました。
エピソード後半、学生時代、解剖実習で悩む賢仁の姿が思い出として描かれます。
治療する為にはそれぞれの動物の体の構造を、実際に見て触って理解する必要があるでしょうし、その点において解剖実習は有意義なのでしょうが、賢仁はその事で失われる動物の命を思い、周囲が仕方のない事と割り切る中、一人思い悩んでいました。
そんな賢仁に当時、教授だった園長の富谷は言います。
仕方なくなんて無い。時代が進み解剖実習もVRで出来る様になれば、自分達の行いは酷い事に変わる。
正しさは時と場合によって変わる。
だから君の悲しい申し訳ないという気持ちは大事にしなさい。
仕方ないと切り捨てる事は思考停止の様な気がします。
他者の気持ちを想像する事、考える事が思いやりを生むのだろうなとエピソードを読んでいて感じました。
また作品については、賢仁の能力を雪男には伝えられていない事や、雪生自身が賢仁たちと打ち解けられていない事等、物語としてまだ起承転結の起承のぐらいに感じられました。
おそらく打ち切りという事なのでしょうが、エピソード自体はとても面白く興味深い物が多く、完結したのは本当に残念です。
まとめ
個人的にはもう何冊か続いて、賢仁の力の事や雪生の閉じた心の事を描いて欲しかったです。
ラストエピソードのセリフは作者さんの心の声の様に感じました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
こちらの作品はComicWaiikerにて一部、無料でお読みいただけます。
山口八三さんのTwitterはこちら。