ふしぎの国のバード 5 ビームコミックス
作:佐々大河
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
実在したイギリス人女流旅行家、イザベラ・バードの旅の様子を描いた冒険旅行記、第5弾。
第20話 金山1 あらすじ1
旅は進み、バード達は山形まで辿り着いた。
宿で頼んだ按摩の言葉で、バードの背中が自分が思っていたより深刻な事を知ったイト。
更に母からの手紙で、マリーズが母と会ったことを知る。
また同封されていたマリーズの手紙には、イトを告発する用意がある事、戻ってくれば現在バードが支払っている月給より、多く支払う事、そしてバードの背中の状態についてが記されていた。
悩んだイトは、按摩の女房である梓巫女に口寄せを頼む。
口寄せで呼ばれた父親は、旅を続ければ、目の前で誰か死ぬと予言する。
不安を抱いたまま、二人の旅は続く。
イトは宿の女中に郵便局へのお使いを頼む。
宛先は東京のイギリス公使、ハリー・パークスとなっていた。
宿を出発した二人は雨の中、目的地の金山集落を目指し、羽州街道を進んでいた。
イトが車夫に詰め寄っている。
バードがイトにどうしたのか尋ねると、車夫が迷ったようだ。
機嫌の悪いイトをなだめ、雨が続いて道が普段と違うから、迷いやすいと車夫を庇う。
車夫は頭を下げながら、ここまで酷い梅雨は初めてだと口にする。
バードは、水害について忠告してくれた、船頭の半次の言葉を思い出していた。
それよりと、バードはイトがちゃんと寝ているか確認する。
いつもは冷静な彼が、少し迷ったぐらいで怒鳴るなど珍しい。
イトは遭難でもしたらと口にするが、バードは落ち着きなさいと話し、場所について説明した。
自分の居場所を完璧に把握しているバードに、車夫が初めての場所で、何故そんなことまで分かるのかと疑問を口にする。
バードは地図とコンパス、手帳を掲げ、読図と答える。
地形や移動した距離を地図と照らし合わせ、自分の位置を確認し道の先を予測する。旅人の基本技術よと彼女は話した。
駆け戻った車夫が、道行く歩荷に確認した情報では、バードが言った通りだったようだ。
迷ったり、天候、地形が厳しくなれば、私の経験が活きる事も増えそうね。そう言ってバードは人力車に乗り込む。
冒険らしくなってきたわと、笑顔を見せるバードとは逆に、イトは危険度が増してきたとも言えますねと暗い表情で呟いた。
雨は激しさを増し、荒れた道は人力車の進行を妨げる。
人力車を後ろから押そうとしたバードだったが、雨に濡れた岩で足を滑らせる。
それを見たイトは慌ててバードに駆け寄り、必死の形相で体に痛みは無いか、背中は大丈夫かバードに尋ねる。
バードは、イトに気付かれたかと焦るが、彼は特に何も言わず、滑り止めにと、ブーツの上から草鞋を履かせた。
イトは必要最低限のこと以外はするなと、バードに釘をさし、歩き出そうとする彼の耳に、痛みを訴えるバードの声が響く。
やはり背中がとイトが駆け寄ると、彼女は山蟻にかまれたようだ。
軟膏をとりだし、使って下さいとバードに差し出す。
しかし、軟膏を塗るため手袋を外した手の甲は、赤く腫れていた。
蟻以外にも、色々やられているようですがと尋ねるイト。
それに困ったように頬を掻きながら、宿では薬と蚊帳で、害虫は防げるようになったんだけどと、袖をまくり腕を見せる。
その腕は複数個所を様々な害虫に噛まれていた。
なぜすぐに言わないのかとバードに迫るイト。
それに、心配させたくなかったし、言っても仕方ないかとと弁明する。
イトは軟膏を塗りながら、膿んでいるから、熱が出ますよと呆れながら言った。
そして、虫よけの匂い袋をバードに手渡す。
バードは高価そうだし、貰うとイトが…と、断ろうとするが、彼はいいからと強引にバードに匂い袋を押し付けた。
龍脳という植物で作られたというそれは、嗅ぐといい香りがした。
急に優しくなったイトに、何かあったのかとバードは問うが、答えは車夫の峠が見えたという声に遮られた。
峠からは、水田の広がる金山集落が一望出来た。
雨も上がり、雲間から光が差し込み、山に囲まれた緑の水田を照らす。
まるで桃源郷(アルカディア)のような景色にバードは笑みを浮かべた。
あらすじ2
集落から聞こえる太鼓の音に、お祭りみたいとバードは足を速めた。
集落では人々が太鼓や笛等を奏でながら、行列を作り練り歩いていた。
豊穣祈願かとバードは思ったが、藁で作られた百足を模した物が引きずられている。
イトが蝗送りの儀式だと教えてくれた。
蝗送り?と尋ねるバードに、イトは詳しく説明する。
害虫を村の外に送り出すために、大きな音をたてたり、虫の形代を引きずり回して燃やしたりする風習のようだ。
送る?駆除するんじゃなくてとバードは問う。
それに送ると言うのは迷信で、実際、駆除する方法もあるとイトは答えた。
稲を枯らす虫を油を加えた水田に払い落として、溺死させる。
秋には殺した虫を供養する儀式も行うようだ。
害虫を供養することに驚き、西洋と日本での、命に対する考え方の違いをバードは感じた。
イトは儀式をするほど、害虫の多い時期だから、今まで以上に警戒をとバードに注意した。
そうするわと答えたバードの左手を、鋭い痛みが襲う。
雀蜂が彼女の左手を手袋の上から刺していた。
払いのけ、バードはイトに雀蜂よと警告を発する。
グローブを外したバードの左手は小刻みに震え、赤く腫れあがっていた。
イトは傷口から毒を吸い出す。
そんな二人の周りに興奮した蜂が集まり初めていた。
イトはバードに、黒い蓑を静かに脱ぎ、民家の軒先にあった巣から離れ、水車小屋の奥を曲がるよう提案する。
二人は蜂から逃れるため、水車小屋を目指し駆け出すが、途中バードの背中が悲鳴を上げ、橋の上に倒れ込んでしまう。
蜂の攻撃をさけるべく、イトはバードを抱え、川の中に飛び込んだ。
民家に辿り着き、イトに介抱されるバードの左手は倍以上に膨らんでいた。
痛みが頭を突き抜け、熱も出ている。
土間に集まった人々が、蜂に刺された際の治療について、様々な民間療法を言い合っていた。
そんな人々を下がらせ、集落の戸長がバードに頭を下げる。
バードは儀式の日にお騒がせしてと、戸長に頭を下げた。
戸長はそんな事お気になさらずと首を振り、蜂の巣のあった家の人間をバードに紹介した。
彼は早期に撤去していれば反省し、恐縮して土下座している。
戸長の話では、家を災難から守ろうと放置したらしい。
バードはイトにどういうことか尋ねる。
イトは熱と痛みに苦しみながら、メモを取るバードに、そんな状態でと思いつつも説明した。
蜂が巣食う家は、火事にならないという迷信があるとバードに伝える。
バードは、厳しい道のりを超えた先に見知らぬ文化や、観たことのない絶景とこういう知らない世界が広がっている。
これこそ旅の醍醐味だわと、熱で上気した顔に笑みを浮かべた。
イトはその言葉に、厳しい表情で、それは命をかける程、大事なことかと尋ねた。
どういう意味と問い返すバードに、医者を呼んでいるが、雨で来られるか分からず、複数刺されていれば死の危険もあったと口にする。
それに対してバードは、初めて会った日に話したはずと返す。
彼女は確かにイトに尋ねた。
命がけの旅になるかも知れないが、ついてこれるかと。
すべて覚悟の上のことでしょう。忘れたとは言わせないわよとバードは続けた。
それにイトは、バードに持病があるとは知らなかったと答えた。
イトは、バードが最近たびたび、背中の痛みに苦しんでいるのを見て、旅を続けるのは無理なのではないかと口にする。
更に続けて、これは覚悟の問題ではなく、現実についての話だとバードに告げた。
その言葉に、バードはイトを睨みつけ、返した。
「現実に私は、この体で世界中を旅してきたわ。
噴火するマウナ・ロア火山に登頂した時も、ロッキー山脈を踏破した時も、いつだってこの体で戦い続けてきたんだから。
運命はいつも、自分自身の意思の中にあるのよ!!」
立ち上がり、そう言い放ったバードは、戸長に部屋で休むことを告げ、縁側を部屋に向かい歩いた。
彼女の頭の中には、これからの旅の計画が渦巻いていたが、体は考える事を許さず、縁側に倒れ込んだ彼女の意識は、闇に落ちて行った。
今回の見どころ
・バードが旅をする理由
体に不調を抱え、心も弱っていたバードを救ったのは、命の危険を孕んだ体験でした。
様々な出会いや出来事、自然の圧倒的な力は、彼女の心に取りついていた闇を吹き飛ばしました。
不安や恐れは、停滞し視野狭窄に陥ってしまった時ほど起こるのかもしれません。
まとめ
今回はバードが、冒険家になるきっかけとなった、出来事が語られます。
彼女は、持病の背中の病を抱え、痛みに苦しんでいました。
しかし、それは身体的な物だけではなく、彼女の心が抱える問題も起因していました。
療養で訪れた先で乗った船が、嵐に遭いそこで起こった出来事が、彼女の心に大きな変化をもたらします。
物語は、背中の持病と、イトの契約という問題を抱えたまま、次巻に続きます。
バードの信念と強さ、そして旅の原動力となっているものが描かれる第5巻でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。