ふしぎの国のバード 4 ビームコミックス
作:佐々大河
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
実在したイギリス人女流旅行家、イザベラ・バードの旅の様子を描いた冒険旅行記、第4弾
第15話 伊藤の記憶 あらすじ1
阿賀野川を船で下り、バード達は新潟に辿り着いた。
新潟では知り合いの宣教師、ファイソンの家に逗留させてもらう事にし、イトには給料と、休暇を与える事にした。
雨の中、新潟の街を歩くイト、彼が投げ捨てた手紙。
それは契約に従い自分のために働くよう、マリーズがイトに宛てて書いたものだった。
バードより休暇をもらい、新潟の街をぶらつくイトは、露店で飴を買い、それを味わいながら今日の予定について考えていた。
人だかりに目をやり、それについて飴屋に尋ねると、露店に置かれた朝顔を指さし、植木市だと答えた。
朝顔を見てイトの脳裏に、血に塗れた手とブーツ、そして痛いか?と尋ねる声が蘇る。
飴屋に代金を渡し、露店を後にするイト。
彼は昨年、まだ鉄道員として働いていた時の事を思い出していた。
彼がチャールズ・マリーズと出会ったのは、大阪駅のホームだった。
助手の男が車内灯について同僚に尋ねていたが、同僚は英語を話せず困惑していた。
助け舟として、車内灯について説明したイトを、助手の男が気に入り、マリーズもそれを認めた。
彼らは名を名乗り、イトに話があると、列車に乗るよう指示した。
彼らはプラント・ハンターで、珍しい植物を見つけるため、英語の話せる体格のいい人材を探していたようだ。
会話の中、マリーズからイトの話し方について、まるで下町言葉だ。卑しさが際立つぞと指摘をうける。
イトは仕事があるのでと列車を降りようとするが、その背中に月給は7ドルだというマリーズの声が届く。
マリーズは、正しい英語を教え、毎日の宿と食事を提供したうえで、通訳として毎月7ドル、イトに支払うと言う。
イトは取り敢えず話を聞いてみる事にした。
マリーズはイトの名を尋ね、園芸について語り始めた。
彼は語る。園芸とは文明の質をはかる、一つの指標だと。
園芸には三つの条件が必要だとマリーズは話した。
ひとつ目、植物の構造や修正を知る、学術的条件
ふたつ目、農業を応用して効率よく栽培する、技術的条件
みっつ目、花や木を愛でる心のゆとりを持つ、経済的条件
この三つを持つ随一の国が、世界最高の園芸大国になる。
そして園芸大国は、世界のあまねく植物を集めなくてはならない。
それがプラント・ハンターの使命であり、その為に通訳が必要なのだとマリーズはイトに話した。
イトが通訳の経験がない事を話すと、マリーズは経験では意欲があるかが重要だと答えた。
イトはマリーズに、園芸文化が日本の文明をはかる指標になるか尋ねた。
彼はもちろんだと返し、イトに宿泊先の書かれた紙を渡した。
その夜、イトは彼の部屋を訪れ、契約書にサインした。
その時のイトには月給7ドルは魅力的に思えたからだ。
「どーぞヨロシクおねげえシマス。」
彼の挨拶にジョンが笑い出す。
マリーズはイトに英語をどこで覚えたのか尋ねた。
イトはイギリスの駐屯軍やアメリカ公使館等でボーイをやりながらと答えた。
マリーズはパイプをふかし、言葉は使う人間の品性を体現するものだと前置きして続けた。
自分は卑しい発音や、言い回しが心底嫌いだ。今後は厳しく教育していく。
分かったなと言うマリーズに、イトは望むところですと答えた。
あらすじ2
それから数週間後、イトはマリーズ達と共に東京の園芸店にいた。
しかし、店にはマリーズの求める新種の植物は存在しなかった。
開国から20年、店に置かれるような物はハンターによって収集され尽くしていた。
マリーズは人の寄り付かない山野に分け入り、新種を探す奥地探検を計画していた。
最終目的地は蝦夷ヶ島、すぐにでも出発しようと、人力車に乗り込むマリーズ。
車夫に行き先を説明するイトの目に朝顔が映る。
早咲きの朝顔が、出回っているようだ。
イトはマリーズに、一軒だけお連れしたい植木屋があると話し、彼をその店に案内した。
その店は、マリーズ達が見たことのない花が溢れていた。
しかし、ルーペで花を観察したマリーズは、全て朝顔であると見抜いた。
イトは朝顔は奇品が多いと、日本の園芸文化を解説した。
奇品の種類を説明するイトをマリーズが止める。
彼は時間の無駄だと切って捨てた。
マリーズは突然変異では、繁殖能力は無いだろうし、ビジネスにならないと店を出ようとする。
イトはマリーズに、種が実らない奇品であっても、同じ系譜の種からは同様の奇品が生まれる事もあるし、接木、挿木、圧條などの技術もあると説明する。
マリーズはイトになぜそんなに植物に詳しいのか尋ねた。
イトは雇われてから、毎日寝ずに勉強したと答えた。
彼はマリーズに、今までの雇い主はこの国を見下すばかりで、文化に興味を示す者はいなかったと語った。
「プラント・アンタ―のマリーズさんなら、園芸文化を紹介すれば、この国のことをわかって下さるンじゃないかと思ッて……!」
そう話したイトに、マリーズは厳しく教育すると言ったら、望む所だと言ったなと尋ねた。
イトは、優秀な通訳になるタメなら、どんなコトでもと答えた。
いい心がけだとマリーズは言い、振り向きざまステッキでイトの頭を殴りつけた。
イトはよろめき、膝をついた。
地面に血が滴る。
膝をつき、額を押さえたイトを見下ろしながら、マリーズは痛いかと尋ねた。
痛みはより多くを記憶させる。
そう言ったマリーズは重要事項を三点伝えると続けた。
ひとつ目、二度と私に同じことを言わせるな。
言葉で言って分からない奴は動物と同じ、体に教えるしかない。
「いいな、私の仕事はプラント・ハンターだ。」
ふたつ目、二度と私にこの国の文化を紹介しようなどと思うな。
教えを乞うために、お前に金を支払っている訳ではない。
お前の存在意義はただひとつ、私の手足となり、指示に従う事だけだ。
みっつ目、ビジネスに関して、二度と私に口答えするな。
お前に許された返事はただひとつ、「はい、マリーズさん」だけだ。
以上だと会話を締めくくり、ジョンとイトに旅の装備を整えろと言い残し、自身はルート確認のため宿に戻った。
イトは去って行くマリーズに「はい、マリーズさん」と答えた。
7ドルの月給は当時のイトには魅力的だった。
たとえそれが、自分の望む仕事とは違ったとしても……。
思い出から立ち返り、街を歩いていると、イトの耳に英語が聞こえて来る。
露天商に花の種類を聞こうと、詰め寄っているバードだった。
ルースが日本語じゃないとと止めているが、興奮しているバードは英語でまくしたてる。
イトは大きくため息をついて、バードに何をしているのか尋ねた。
彼女は露店で売られていた花について聞きたかったようだ。
バードが手にした花、それはかつてイトが、マリーズに紹介した朝顔の奇品、大咲牡丹だった。
マリーズの事もあり口ごもるイトに、植物のことはあまり詳しくないとかと揶揄いの表情を浮かべるバード。
それにムッとしたイトは、朝顔の突然変異である事と、咲き方の名前が大咲牡丹である事を伝えた。
手にした花が朝顔であると言われ、驚愕するバード。
彼女は聞いたことのない文化だわと興奮し、他の突然変異についてもイトに尋ねた。
笑顔を浮かべ話す彼女に、イトはしばし茫然とする。
彼が休日だったことを思い出し、謝るバードにイトは園芸文化を説明するからついて来て下さいと告げた。
様々な葉をつける接木の台木や、日本独自の園芸技術に興味深々で見て回るバード。
喜びの表情を浮かべるバードの顔を見て、イトは心に暖かいものが広がるのを感じた。
今回の見どころ
・急速な西洋化のしわ寄せ
新潟から越後街道を抜け、山形に辿りついたバード達は、街を見て回ります。
イトはバードに日本が近代化している所を、紹介したかったようですが、私が読んでいて感じたのは、急激な変化に対応できない人々の姿でした。
何百年と続いた生活を、数年で変えようとするのですから、やはりどこかに無理があると感じました。
感想
バード達は、今回、山形までたどり着きました。
そこでバードは持病である背中の痛みを、イトは以前の雇い主マリーズとの契約についてを、お互いに言い出せずにいました。
不安を抱えたまま二人の旅は続きます。
今回はあらすじで書いた、江戸時代に生まれた朝顔の奇品の他にも、歩荷の女性たち、山形の人々や病院、按摩や梓巫女(いたこ)等が登場します。
265年続いた江戸時代が終わり、西洋諸国に並ぶため、急激な西洋化を進めようとする政府と、変化について行けない一般庶民たちの姿もこの物語には描かれています。
マリーズの高圧的な態度は気に入りませんが、一巻でも出てきたように当時の日本は文明の遅れた国と、下に見られる事も多かったのでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。