ふしぎの国のバード 2 ビームコミックス
作:佐々大河
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
実在したイギリス人女流旅行家、イザベラ・バードの旅の様子を描いた冒険旅行記、第2巻。
第6話 日光3
あらすじ
東京にてイギリス全権公使のサー・ハリー・パークスの計らいで、旅の帰還及びルートについて無制限・無期限という、前代未聞のパスポートを手に入れたバード。
劣悪な宿、慣れない食事に苦労しながら、外国人も観光で多く訪れる日光に辿り着いた。
日本人を見下す西洋人の旅行者との出会い、民宿の娘、お春の髪上祝等を経験しながら、バードとイトの旅は続く。
バードは日光の民宿で旅のルートについて考えていた。
彼女が想定していたのは会津道。
鬼怒川を北上して、大内に抜け新潟に至るルートだ。
しかし民宿には会津道について知る者はいなかった。
バードは会津道の起点となる日光までくれば、多少なりとも情報が得られると考えていたが、イトからも青森へ行くなら、奥州街道を行くのがスタンダードであるし、日光から新潟への行程にしても三国街道が公式ルートだと言われてしまう。
バードはすでにその道は、西洋人が踏破しているとあくまで会津道にこだわる。
イトは、道も過酷で日本人の旅人でも選ぶものは無く、おそらく大変な目にあうとバードに話すが、彼女は望むところよと口にし、続けて言った。
「誰も選ばない道だからこそ、進む価値があるんだわ」
しかしイトは詳しい情報が何一つ得られないのに、その道を進もうとするのは、正気の沙汰ではないと真っ向から反対する。
バードとイトが険悪な雰囲気になったのを気遣い、お春たちが倉から書物を大量に運んで来た。
彼女らが持ってきたのは、道中記や各所図絵。
イトがガイドブックのようなものですとバードに説明する。
お春の気遣いにバードは思わず彼女を抱きしめた。
バードはイトに翻訳を頼み、会津道について書かれたものを精査していく。
バードは手にした本の情報量の多さに感心し、日本人は旅行好きなのねと感想を漏らす。
その言葉にイトは、バードさん程ではないと思いますがと冷静に返した。
道中記等を調べるが、やはり有名な街道に関する記述が殆どで、会津道についての情報は少ないようだった。
行き詰るバードに、お春が根を詰めすぎないようにと、お酒を持ってくる。
断るのも悪いと頂くことにして、イトにも勧めるが、彼は酒より饅頭のようだ。
その後も食事を取るイトの横で、酒を飲みつつ情報を探すバード。
お春にお酌されながら、酔わないように気をつけないとと酒を口にするバードの周りでは、泊り客が各々飲み始めていた。
素謡を行う者、裸になり腹に絵を描き踊り出す者などを眺めながら、杯を重ねる。
バードが飲んでいたのは燗酒で、気が付けば呂律が回らぬほど酔いは回っていた。
それでも進められるまま飲み続け、イトは泥酔し寝てしまったバードを部屋に運んだ。
バードをベッドに寝かせる時、イトはベッドの帆布が破れかかっているのに気付く、横になったバードは地図を抱きしめたままだったので、それを片付けようとするが、彼女が地図を放すことはなかった。
どれだけ諦めが悪いのかと嘆息するイトの目に、バードが会津道にこだわる理由の論文が映る。
彼はそれを手にとり、読み始めた。
バードに論文を勧めた者のメッセージが書かれている。
名前はC・ダーウィンとなっていた。
著者はチャールズ・ダラス。
内容は会津道についてのもので、ダラスが伝え聞いた所によると、街道というよりは、踏み均した小径であり、民宿の者も知らなかったように、日本人でも知る者の少ない道のようだ。
通行は困難だが、踏破すれば筆舌に尽くしがたい絶景に出会えるだろうと書かれていた。
論文は語る。
道に沿って連なる山脈は嶺から裾野まで緑に覆われ、まるで岩塊そのものから生えているような樹木、岩に砕ける激流。
そこに千変万化の色調が加わり、1マイルごとに目も醒めるような絵となり、しかもそのひとつひとつが、至高の芸術品なのだという。
イトは論文を閉じ、煙管に火を入れる。
バードの昼間の言葉を思い出しながら、煙管をくゆらす。
月明かりの夜空に、イトの吹き出した紫煙が舞った。
翌朝、昨日の醜態を思い出しバードは、悶えていた。
しかし気持ちを切り替え、意識は会津道に向けられる。
情報を探しながら、挨拶に来たイトにも話半分で返答するバード。
そんなバードにため息をつき、洗濯物を抱え部屋を出たイトはお春に何事か頼み。水場で洗濯を行った。
一旦作業に区切りをつけて、水場を訪れたバードは顔を洗いながら、自分の下着が干されているのを発見する。
下着は自分で洗うからと、慌てるバードにイトは情報が見つかったのかを問う。
全然と落ち込むバードだが、やはり決めた事は曲げたくないとイトに語る。
そこにお春が、何か持って駆け付ける。
イトがお春に頼んだのは、厚手の帆布と丈夫な紐だった。
彼はベッドの痛みを補強するため、お春にお使いを頼んだのだった。
イトはバードに、これからはお春に頼んだような道具は、手に入り難くなるだろうとバードに伝えた。
会津道は山また山の過酷な悪路ですのでと続けて言う。
どういう風の吹き回しとイトを揺さぶるバードに、初めてお会いした日に申し上げた通りですとイトは顔を背け答える。
そして
「僕の仕事はバードさんの通訳と、身の回りのお世話であり、
いかなる地であろうとも、それが変わることはないという事です。」
と彼女を見て答えた。
バードは笑みを浮かべ、溢れる感情を、イトの代わりに手を広げたお春を抱きしめる事で表した。
その後日光にて旅の準備を整える二人。
バードには西洋人にとって未知の領域である、会津道を行くことに不安はなかった。
何故なら、彼女には優秀な通訳ガイドがついているのだから。
今回の見どころ
・温泉地での様子
今回登場する温泉地では、露天風呂やサウナのような物も登場します。
また当時、政府は混浴禁止令を出していたようですが、行き届かず風呂は混浴で、男女が一緒に入ることは普通だったようです。
日本人が昔から風呂好きだったことが窺えるエピソードでした。
感想
今巻ではバード達は、日光を発ち鬼怒川を北上、会津道を進みます。
道は険しく、混浴の湯治場や、イトも知らない風習、害虫の溢れる宿、貧しい人々の暮らし等を目にします。
しかし、イトの気遣いや、人々の優しさがバードの足を先に進めます。
この時代、明治政府は富国強兵を掲げ、西洋化を推進していましたが、バードが旅をした地域では、江戸時代と変わらない生活を営む農村の風景が描かれています。
この作品でイト、伊藤鶴吉はクールで優秀な人物に描かれています。
実際も甘党で酒を飲まず、煙草をたしなみ、料理上手だったようです。
彼なくしては、バードの旅の成功は無かったでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。