ふしぎの国のバード 1 ビームコミックス
作:佐々大河
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
約140年前、日本を旅した実在のイギリス人の女流冒険家、イザベラ・バードと通訳兼ガイドの伊藤鶴吉の、旅の様子を描いた旅行記を漫画化した作品です。
この作品では今は失われた、文化や風習、人々の生活や日本の自然が美しく繊細に描かれています。
また、良い面ばかりではなく、当時の貧しい人たちの不衛生な暮らしの様子や、明治政府の西洋化を推し進める方針とそれに戸惑う民衆たちの様子等も描かれています。
第1話 横浜
あらすじ
女流冒険家、イザベラ・バード。
彼女は1878年(明治11年)横浜の港に降り立った。
バードは観光地としての日本ではなく、実際に日本で生きる人の暮らしや文化を記録するため、東京から北にぬけ新潟を経由し北上、西海岸ルートを踏破し最終目的地、蝦夷ヶ島(北海道)を目指す旅を計画していた。
彼女は横浜に暮らす医療宣教師ジェームス・ヘボンに、旅に同行してくれる通訳の紹介を頼んだ。
ヘボンはかつてバードが執筆した旅行記の読者であった。
彼は通訳探しを協力を快諾してくれた。
ヘボンの呼びかけで沢山の志願者が集まってくれた。
この旅の成否は、優秀な通訳を雇えるかにかかっている。
バードは意気込んで面接を行ったが、事前にヘボンが言った様に、英語を流暢に話せる人材は少なく、一番まともに話せた男も、旅の目的地とルートを聞くと、辞退してしまった。
ヘボンの屋敷から帰ろうとするバードに、一人の青年が英語で声をかける。
伊藤鶴吉と名乗った男の英語力に、バードは興奮するが彼は紹介状も身分を証明できるものも持ってはいなかった。
ヘボンは、西洋人を狙う詐欺師も多いし、身元不明者を雇うのは危険だとバードに忠告するが、彼女は伊藤(イト)に横浜の案内を頼み、彼の通訳としての力量を測る事にした。
イトが初めに案内して来てくれたのは、横浜日本人街の骨董品通りだった。
沢山の陶器が並んでいたが、どれも粗悪品でイトの話では、外国人向けに大量生産された物だった。
バードはイトに、人々の生活が見えるところに、案内してほしいと頼む。
次にイトが案内したのは、港崎、衣文坂市場だった。
市場は沢山の人でにぎわっており、水揚げされたばかりの生きのいい海産物が所狭しと並び売られていた。
作業を行っている女性に、何をしているのか興味深々で尋ねるバード。
作業中の女性の言葉を、イトが通訳してくれる。
彼女はアワビを笊にいれて並べているようだ。
アワビ?と尋ねるバードに、英語ではアバローニと、学名はハリオティスだったかと答えるイト。
女性はアワビをさばき、バードに試食を勧めてきた。
生食には抵抗があったが、一つ、つまんで口にする。
美味しさに笑顔を見せるバードに、女性も微笑みを返した。
夕暮れ、堤防近くを魚を笊に抱えて歩くバードは満足げだった。
「旅に出たらその土地の市場を見よ」博物学の教え通りだったと微笑むバードは、抱えた笊を堤防に置き、イトに向き直る。
彼女はイトに一日では、貴方が信頼に足るかどうかは分からない。
しかし通訳として、優秀だということは良く分かった。最後にと前置きし続けた。
「私の旅の目的地は蝦夷ヶ島です。
命がけの旅になるかもしれませんが、ついてこれますか?」
その問いに、イトは、
「問題ありません。
いかなる地であろうと、ぼくはぼくの仕事をするだけです。」
と答えた。
よろしくお願いねと手を差し出すバードに、イトは頭を下げる。
頭を上げたイトは、それにと続けて言った。
彼は去年、蝦夷に行ったらしい。しかも西南戦争で船が使えなかったため、チャールズ・マリーズという人の通訳として東海岸ルートを陸路で抜けて行ったというのだ。
マリーズは今、清国にいるため、紹介状は用意出来なかったらしい。
バードは早く言えと、イトの襟首をつかみ揺さぶるのだった。
一夜開けて、6月6日、お世話になったヘボンに見送られ、バードはイトと二人横浜を発った。
ヘボンから送られた笠をかぶり、人力車で東京を目指す。
この人力車は、走行中に急に体勢をを変えると危険だとイトがバードに注意する。
よく分からないが、取敢えず分かったわとバードは答えた。
道中、雨が降り出したのでイトは傘をさす、なるほどと自身の傘をバードはさそうとするが、傘をとり落とし、それを追ったため人力車がバランスを崩し、二人は前に投げ出されてしまった。
イトは見事な受け身でしのいだが、バードは雨でぬれた道に頭から突っ込んでしまった。
先が思いやられると嘆息するバードに、イトが手を差し出す。
その手を取りながら、これからよろしく頼むわねと、出来なかった握手を交わすバード。
こうして不思議の国を旅する物語が幕をあけた。
今回の見どころ
・不思議の国、日本
当時の外国人にとって、日本はとてもミステリアスな国だったようです。
彼らが知るのは、西洋化の進む開港地での生活のみで、バードが旅したような、江戸時代と変わらない暮らしを送る地域の情報は皆無でした。
たった140年前が、そんな状態だったという事は、この作品に触れるまで思いもしませんでした。
・豆玩具
今回、作中にお菓子の中に小さな玩具が、入っているものが登場します。
精巧に作られたそれらを見ると、根付などの文化もそうですが、日本人は昔からこういったミニチュアが好きなのだなと感じました。
感想
実在の冒険旅行家、イザベラ・バードの横浜から北海道までの旅を綴ったお話です。
バードは、アメリカ、ロッキー山脈やハワイ等の旅行記を執筆し、それを愛読する人も多い紀行作家です。
バードは開国により失われつつある日本の文化を記録するため、今まで外国人が踏み入れたことのない西海岸を回るルートで蝦夷を目指します。
自然や日本独自の文化など美しい物だけではなく、劣悪な環境や人々の貧しい暮らしも描き出されます。
好奇心旺盛なバードと冷静沈着なイトが時に反発しながら、時にお互いを気遣いながら旅は進んでいきます。
イギリス人のバードが日本の風習や食事におっかなびっくり触れていく様が楽しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。