漫画完結作品

黒博物館 ゴーストアンドレディ 上 あらすじ・感想

投稿日:2019年2月17日 更新日:

フリントロックピストル
黒博物館 ゴーストアンドレディ上 モーニングKC

作:藤田和日郎
出版社:講談社

ロンドン警視庁(スコットランドヤード)の犯罪資料館「黒博物館」。
ある日、そこに一人の老紳士が訪れる。
彼は展示物の一つ、「〈灰色の服の男〉のかち合い弾」を見せて欲しいという。

〈灰色の服の男〉はドルーリー・レーン王立劇場に現れる幽霊だ。
乗馬用のブーツを履き、長い灰色のコートを着て、腰には剣とピストル、古めかしい三角の帽子の下は、化粧用の白いかつら。

昼間の興行(マチネ)の最中によく現れ、客席のアッパーサークルに座っており、そこから立ち上がって、客席の後ろを通って壁の中に消えていく。
彼が現れるとその公演は大当たりするという。

かち合い弾はその〈灰色の服の男〉が劇場に残した物だった。
銃から放たれた弾丸が空中でぶつかり合う、考えられないと話す学芸員の女性に老人は、一日32万発もの銃弾が飛び交う処もあった。
奇跡も起こり得ると答えた。

老人は学芸員に弾の由来を話したら、頼みを聞いてもらえるかと尋ねた。
弾については、幽霊が置いていったこと以外、何も分かっておらず彼女は一も二もなく飛びついた。

老人に言われるまま、彼の後ろに椅子を置く。

「ホレイショ―、この天地のあいだには、人智の及ばぬことが幾らもあるのだ。」

ハムレットの一節を口にしながら現れたのは、かち合い弾を置いていった幽霊、灰色の服の男だった。

老人から抜け出た男は言った。

「さ 話を始めようか…」

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第1話 ゴースト レディーと会う。

あらすじ
老人から出てきた男にたじろぎながら、学芸員は彼に話を促した。
彼女はまず初めに男について尋ねた。

彼は決闘の代理人、本人に代わって決闘を請け負う。
男は代理人としてかなり強かったようだ。
言いにくい事ですけどと学芸員は前置きして言った。
彼が幽霊になっているという事は、決闘で負けたということだろう。

しかし何故、王立劇場に取り憑いているのか。

「今、森の中で阿呆に出会ったのでございます」

シェイクスピアの『お気に召すまま』のセリフを口にし、男は死んだ時のことは忘れていたと話した。
めんどくさい女と関わったことで、彼はその時の事を思い出したと言う。

1852年12月7日、男はその日も王立劇場で芝居を見ていた。
彼は演劇を見るのが好きだった。
観客の喚声や野次、笑い声やおしゃべりがあっても、芝居を見ている間、観客たちはそれに夢中になり、男にとってはとても静かで心地よいものになるからだ。

死んだ時の記憶はあいまいだが、気が付いた時にはこの劇場に取り憑いて座っていた。
それ以来、男は芝居を見続けた。
役者の立ち位置やセリフを諳んじられる程には見続けている。

誰かが男に近づいてくる。
その姿を見て男は驚きの表情を浮かべた。

男は学芸員に説明する。
人は誰しも生霊を背負っている。
人が人に悪意を持つ時、人が人を妬む時、人間には見えないそれは大きさを増していく。

生霊は、悪意を持った相手の生霊を攻撃し、相手の宿主をも縛り付ける。
例えば、ある人物と会ったあとにとても疲労することや、上手くいかない人間関係などはこの生霊が関わっているそうだ。
だが普段、生霊を出しうるさく争い合っている人達も、面白い演劇やキレイな音楽を聴いている時は生霊を出さない。

そんな時、男は少しだけ生きている人間が好きになると語った。

だが長い年月、劇場に棲み人を見てきた彼でさえ、あんなものは見たことがなかった。
その女は自身の生霊に体を刺し貫かれていた。
生霊によりボロボロになった女は、男に言う。

「私を取り殺して、幽霊」

彼はそれに応えてしまった。
彼女があんまりにも、マクベス夫人のような狂気すれすれの、必死な目をしていたから。
彼はその目に舞台の幕が上がる時のような、ゾクゾクとした高揚感を覚えたからだ。

彼は女に何故、死を望むのか聞いた。
彼女は人の頭上に化け物だらけの世で、自分が生きていても何にもならないと男に話した。
女には生霊の姿が見えているようだった。

男は更に女に話を聞こうとするが、彼女の生霊が吠え猛り、会話も覚束ない。
女を傷つけようとする生霊の剣を止め、彼は生霊に決闘を申し込んだ。

「君は大声でわたしの会話を台無しにしてくれた。
よって我らの名誉の章典にしたがい、
君にわたしを殺害する機会を与えよう
わたしは今、ここで君に決闘を申し込む!」

男は生霊の攻撃をかいくぐり、吠える口に両手の剣を突き立てた。

弾け飛んだ女の生霊が舞う中、男は女に名を尋ねる。

「フロレンス……
フロレンス・ナイチンゲールと申します。」

これが〈灰色の服の男〉とフロレンスの出会いだった。

感想

近代看護教育の母、ナイチンゲールのお話です。
ナイチンゲールの名は知っていても、伝記等を読まなければ彼女が何を成したのか、詳しく知らない人も多いでしょう。
私もこの話を読むまでは、なにか医療関係で凄い事をした人ぐらいの認識でした。

裕福な家庭に生まれた彼女は、この漫画の中では、彼女には幼い頃から人の頭上に生霊が見えたようです。
しかし常に両親のいうことを守る「いい子」になろうとしていたフロレンスは、そのことを隠し生きるようになります。
父の言う通り勉強に励み、母の言う通り淑女としてのたしなみを身につけ、舞踏会でも完璧なレディを演じることが出来ました。

ですが、彼女の心には常に、これでいいのかという思いがありました。
そして社会勉強のために訪れた、貧しい農村で彼女は病人の看護という、やりたいことを見つけます。
しかし家族の猛反対にあい、絶望して男の下を訪れたのでした。
自身を取り殺してもらうために。

フロレンスの理由を聞いた男は、彼女の事を笑います。
「いい子」が親に反抗して負けたから死にたい、
つまんねぇ女だ。
それにくだらねぇ望みだと。

それを聞いたフロレンスは男を睨みつけこう言います。

「人を助ける事のどこがくだらない望みなのですか!?」

私はこのセリフと描かれた瞳の力で、一瞬でこの漫画の虜になりました。
その後、フロレンスは唇を噛みしめながら立ち向かい、当時の医療の形を変えていきます。
灰色の服の男は、彼女に取り憑き、フロレンスが絶望した瞬間、取り殺すと約束し彼女について行くことになります。

史実に基づきながら、灰色の服の男や生霊等のフィクションも織り交ぜつつ、演劇のセリフがそれを彩ります。
うしおととら、からくりサーカスの藤田和日郎さんが描く、極上のエンターテインメントです。

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