ヴィンランド・サガ16 アフタヌーンKC
作:幸村誠
出版社:講談社
エイナル、レイフ、ギョロと共にハーフダンのもとを訪れたトルフィン。
そこでレイフの義理の妹、グズリーズと出会う。
彼女は夫に先立たれ、未亡人としてレイフの妹、チューラと暮らしていたが、ハーフダンの息子、シグルドとの結婚が決まり花嫁としてアイスランドを訪れたのだ。
グズリーズが逃げ出し髪を切ったり、人攫いと誤解されシグルドに攻撃されたりと色々あったが、ハーフダンと会う事に成功する。
借金については断られたものの、結婚式の祝いの礼として一角の角を譲り受ける。
角を金に換えるため、トルフィン達は遠くギリシア、ミクラガルドを目指すこととなった。
一方、グズリーズは幼い頃レイフより聞かされた広い世界へのあこがれを捨てきれないまま、シグルドとの婚礼に臨んでいた。
その後、グズリーズはシグルドとの初夜で、彼の足をナイフで刺し逃げ出してしまう。
第108話 繋がれたアジサシ(クリーア)10
あらすじ
逃げ出したグズリーズを探し、シグルドたちは村を捜索していた。
出発の準備を整えたトルフィン達は明日に備えて、早々に寝てしまおうとしていた。
そんな折、トルフィンは不自然に動く樽を見咎める。
「グズリーズ、こんなトコにいてもいいのかい花嫁が」
見破られ返答するグズリーズに、レイフが初夜にこんなところで遊んでいる場合かと叱責する。
それに対し、グズリーズはシグルドを刺したことを告白する。
トルフィンは驚き、シグルドを殺したのかを問う。
グズリーズから刺したのは足と聞き、ホッとするも、何故そんな事をしたのか問いただす。
彼女は、頭では分かっていたつもりでも、体は分かっていなかったみたいと苦笑しながら答える。
謝れば許してもらえるのか、無理かこんな危ない女と一緒に寝る気なんて二度と…そう言いながらグズリーズは涙を流す。
トルフィン達が見守る中、顔を押さえたグズリーズは続けて言う。
みんなが……当たり前にできることが、できなきゃいけないことが……っ、できない……。
グズリーズの独白は続く。
チューラがグズリーズのためを思って、今回の結婚を進めてくれたことは分かっている。
しかしそれが嬉しいとは、彼女には思えなかった。
彼女自身、バカでわがままな事は分かっていた。
それでも、船にのりたい、世界を見たいという思いは、止めることができない。
彼女は、好きで女に生まれたわけじゃないと口にしてさらに続けた。
「どうして女は船乗りになれないの?
どうして自分の生き方を自分で選べないの?」
彼女の言葉を聞き終えたトルフィンは、選べるさと答え、レイフ達にグズリーズを乗組員に加えることを提案した。
エイナルは賛成したが、レイフはシグルドを刺したことを気にしていた。
それにトルフィンは、今戻ればただでは済まない、ほとぼりを冷ますべきだと告げ、グズリーズを乗せて、今すぐここを離れようと話した。
そしてグズリーズに向かって、こう尋ねた。
「オレ達は世界の果てへ行く。
生きてここへは戻れないかも知れない。
それでも一緒に来るかい?」
トルフィンの言葉にグズリーズは、ハッとしたように顔を上げたが、すぐに俯き行きたいけどと言葉を濁す。
それにチューラが、私に気兼ねなんてガラにもないことをするなと後押しした。
チューラはグズリーズが逃げ出したと聞き、船着き場だと直感し、彼女のために荷物を持ってきたのだ。
チューラは良かれと思ってしたことが、グズリーズを追い詰める結果になったことを詫び、行きたい所へ行きなさいと彼女の肩に鞄を掛けた。
その言葉にグズリーズは涙を流す。
何とかするから早く行けと言うチューラに、レイフは何とかってと不安を口にするが、チューラのいいから早く船を出しなさい。グズリーズをよろしくという言葉を受けて、出航することを決める。
遠ざかる船着き場に立つチューラに、グズリーズはいい子になれなくてごめんなさいと叫びをあげるのだった。
満天の星空の下、グズリーズを乗せて船は沖に漕ぎ出した。
感想
今巻では、家同士の諍いにより、行き場所を無くした赤ん坊カルリや、彼を守っていた犬、そしてトルフィンに父を殺された女狩人ヒルドが登場します。
今回も見どころは沢山ですが、シグやんの可愛さに心が奪われます。
自分を刺したグズリーズが凍えるかもと心配する所とか、船の扱いが未熟な仲間を罵りながら、甲斐甲斐しく指導する所とかが堪りません。
次巻は天才発明家であり、凄腕狩人でもあるヒルドとの戦いです。
こちらの作品はコミックDAYSにて一部無料でお読み頂けます。
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