ヴィンランド・サガ15 アフタヌーンKC
作:幸村誠
出版社:講談社
クヌートはトルフィンとの対話で、農場の接収計画を白紙に戻した。
彼は財源確保の原因だった、駐英デンマーク軍を解散。
これが逆に功を奏し、イングランド国民の信頼を獲得。
名実共にイングランド国王となった。
農場は、怪我と精神的な痛手から、引退を余儀なくされたケティルからオルマルが当主を代行。
戦傷者たちへの賠償金を支払い、農場の規模は半分になったが、蛇たちと共に農場の仕事を精力的に行っている。
トールギルは農場を去り、その行方は杳として知れない。
トルフィンはレイフ達と、アイスランドに帰って来た。
十六年ぶりの故郷では、トルフィンは死んだことになっており、トルフィン自身、幼馴染の顔も分からなくなっていた。
姉のユルヴァにも騙りだと思われ、落ち込むトルフィンだったが、母のヘルガだけは、彼をトルフィンだと一目で認識した。
その後、レイフの連れてきた男が、騙りではなく弟のトルフィンであると知ったユルヴァから、怒りのこもったキツイ一発をもらうのだった。
第101話 繋がれたアジサシ(クリーア)1
あらすじ
カモメも舞う海を初老の男が一人見ていた。
若い黒髪の男が父上と話しかける。
男は土地の買収が成功したと、初老の男に報告する。
初老の男はハーフダン、かつて奴隷をめぐってトルフィンの家を訪れた男だ。
ハーフダンは、杭の上に一羽のアジサシの姿を見つける。
アジサシは夏の鳥だ。
出来損ないか、飛ぶ力が足りなかったのだろうと語るハーフダンに黒髪の男は、鳥がお好きでしたかと尋ねるが、ハーフダンは特に表情も変えず、アジサシがすすんで自分の鎖につながれるなら、飼ってやらなくもないと返した。
続けて、買収した土地の管理を黒髪の男、彼の息子シグルドに任すことを告げた。
結婚の前祝いと話すハーフダンにシグルドは礼を述べる。
そんな二人の目に、こちらに向かう船が映る。
花嫁が到着したようだ。
船の上では、黒髪の女性が船の周りを舞うアジサシを見つめていた。
ところ変わって、アイスランド。
トルフィンの生家では、ユルヴァがトルフィンの身だしなみを整えていた。
髪を切りながら、漁師スノッギの孫娘の話をトルフィンに語る。
何の話と聞き返すトルフィンに、ユルヴァはお婿に行けと返す。
続けてユルヴァはトルフィンに、彼の年齢ならとっくに身を固めていてもおかしくないと話した。
トルフィンは、自分がいくつなのか気になり、ユルヴァに尋ねた。
彼女は私と九つ違いの二十二歳と答える。
姉の年齢を計算しようとするトルフィンを強く止め、ユルヴァは母を安心させるためしっかり根を張って生きなさいと彼に話した。
それもいいかも知れないと、トルフィンは口にした。
でもオレは行かなくちゃならないと彼は続ける。
トルフィンは彼女に、今夜、これまでの事とこれからの事を話すと告げた。
ユルヴァは彼の瞳を見る。
その目は曇りなく彼女を見つめ返した。
ユルヴァはため息を吐き、考えがあるなら早く言えと口にする。
それにトルフィンは、昨日の夜話そうと思ったが、彼女に殴られ気がついたら朝だったと返した。
彼の頭を触りながら遠くに行くのと聞くユルヴァに、ごめんとトルフィンは答えた。
不意にユルヴァは噴き出す。
突然笑い出したユルヴァに、何事かトルフィンが尋ねると、彼女は頭の形は変わらないのねと答えた。
「アンタが確かにトルフィンだって証拠をやっと見つけたわ」
そう話し、彼の髪を整えた。
家は笑いに包まれていた。
髯をそられ、髪も短く切りそろえられたトルフィンは仏頂面だ。
人相はよくなったと言うエイナルに慰めはやめてくれと返すトルフィン。
それに対してエイナルは、ぜんぜん強そうに見えないぜ、その顔ならと答える。
エイナルの言葉に、ならいいかとトルフィンは髯の無い顎を撫でた。
そして夜、子供たちが寝静まった後、トルフィンはこれまでの事を家族に語った。
父、トールズの死からケティルの農場を発つまでの事を要所のみかいつまんで話したが、その壮絶な経験は聞くものを絶句させた。
語り終えたあと、トルフィンは自分が殺してしまった人達、絶望のなか死んでいった奴隷達、彼らにも今自分がいるような、暖かい家庭があったのかも知れないと話した。
そして、自分の罪は重く、償いのために行かなければならない。平和の国を築くためヴィンランドへと続けた。
存分におやりなさい。トールズの子、トルフィンと母ヘルガは言った。
彼女は、世界から逃げ出したいと思っている人は沢山いると語った。
自分たちもヨムスボルグから逃げて、アイスランドにたどり着いた。
ヘルガは続ける。
「人々が戦争や奴隷制から逃げて
どこまでも逃げて
水平線のかなたまで逃げ切ったその先で
あなたは平和の国を作って待ちその人々を受け入れるのです。
そのために生きなさい。」
ヘルガの言葉にトルフィンはありがとう、母上と答えた。
その後、ユルヴァの旦那になったアーレ達と国造りのための資金についてに話し合う。
今は一文無しのトルフィンたち、誰かに借りるという話のなかでハーフダンの名前が挙がる。
ハーフダンかなるほどと声を上げるトルフィンに、アーレが待ったをかける。
鉄鎖のハーフダン。
金を借りれば最後、尻の毛まで抜かれると噂の人物だった。
感想
今巻では、今後ヒロインとして活躍するグズリーズのほか、ハーフダンの息子シグルドが登場します。
特にシグルドは、見た目とは裏腹に愛嬌のある人物で見ていて楽しいです。
タイトルになっているヴィンランド。
水平線のはるか彼方にあるその場所を目指して、トルフィンの国造りの旅が始まりました。
こちらの作品はコミックDAYSにて一部無料でお読み頂けます。
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